Googleが自撮り認証機能「セルフィービデオ」の提供を開始した。 blog.google
Googleアカウントのパスワードを忘れた場合、通常は再設定用メールアドレスなどを使って復旧する。しかし、そのメールアドレスにもアクセスできず、普段使っている認証端末も手元になかったらどうするか。そんな「ログインに詰んでしまったシーン」の救済策として登場したのがセルフィービデオだ。(そんなことが公式ページに書いてある。)
自撮り動画を使えば、ロックアウトされたり、普段の携帯電話やパソコンにアクセスできなくなったりする場合など、サインインするためのオプションがさらに増えます。
あらかじめセルフィービデオを登録しておき、万が一のロックアウト時には再度カメラで顔を撮影・照合することで本人認証を行う。もちろんディープフェイク対策などの生体検知も組み込まれている。
ログインに関するアクセシビリティの課題
アクセシビリティ向上がライフワークである私は、こういった機能がログイン・認証まわりのアクセシビリティに与える影響について考えた。
「ログインのアクセシビリティ」でまず思い浮かぶのは WCAG 2.2の達成基準 3.3.8と3.3.9のアクセシブルな認証*1。これはパスワードの記憶やワンタイムパスコードの転記、パズル認証といった「認知機能テスト」をユーザーに課す場合、代替手段(パスワードマネージャーの自動入力やWebAuthnなど)を提供することを求める達成基準だ。
達成基準にも関連するCAPTCHAは、アクセシビリティ上の障壁になりうる認証として知られている。
このあたりは、すでに議論されている課題。
高齢者や知的障害者のログインの課題
一方で、まだ開発者の間であまり語られていない論点として、高齢者や知的障害者、あるいは複数の特性を持つ人々が直面するログインの障壁がある。
実際のユーザーテストなどでWebアプリケーションの利用状況を観察していると、最もつまずきやすい操作の一つがまさに「ログイン」だ。
※高齢者と知的障害者の特性は異なるが、「不慣れで複雑な手順を強いられた際の操作障壁」には多くの共通点が見られる。
1. パスワード管理の難しさ
パスワードの管理方法はアナログ・デジタル問わず存在するが、いざというときにスムーズに取り出せないことが多い。
- アナログ: メモに書いておいたが、紛失した/どこにあるか分からない
- デジタル: パスワード管理アプリを勧められたが、ツールの概念や操作方法が理解できない
2. 心理的な負担(失敗への恐怖)
ログインという重要かつ避けられない操作に対して、強い抵抗感やプレッシャーを感じ、操作自体を諦めたり他人に頼るまで先延ばしにしてしまうケースがある。
- 間違えたらどうしようという「失敗への恐怖」が大きい
- 過去に誤入力でアカウントロックを経験していると、抵抗感がさらに増幅する
- 「n回間違えました」という警告表示そのものが強いストレスになる
3. 「誰かに手伝ってもらう」ことに潜むリスク
自力でのログインが困難な場合、周囲の人にパスワードを確認してもらったり、入力を代行してもらったりすることが常態化しがちだ。
しかし、信頼できる第三者が常にそばにいるとは限らない。また、悪意の有無にかかわらず、他人に認証情報を預ける行為は重大なセキュリティリスクに直結する。
生体認証はログインのアクセシビリティ課題を向上するか
Googleが提供しはじめたセルフィービデオはアカウント復旧用の機能だが、もし将来的にこれが通常のログイン手段としても広がったらどうだろうか。
パスワード管理の難しさや失敗へのプレッシャーに対して、身体ひとつで完了できる生体認証は有効な解決策になり得る。
専用のセンサー(Face IDや指紋リーダー)を搭載した高価な端末を持っていなくても、一般的なWebカメラさえあれば認証できる世界線は、デバイス格差やデジタルディバイドの解消にもつながる。
(ヘルプページ*2を見る限り最低解像度などの厳しい条件はなく、一般的なカメラであれば利用可能と思われる。ただし、逆光や暗所といった「撮影環境」による影響は考慮が必要そうだ。)
パスワードの転記や別端末の操作を必要とせず、カメラの前にいるだけで認証が通るようになれば、多くのユーザーが認知負荷から解放されるはずだ。
解決する課題がある一方で、別の壁
一方で、生体認証が障壁になるケースもある。 ディープフェイク対策を伴う生体検知では、指示に従って顔を上下左右に動かしたり、傾けたりする動作を要求されることが多い。頸部や顔面の運動機能に制約があるユーザーにとっては、こうした動作自体が極めて高いハードルになる。
どのような手法にも一長一短があり、生体認証がログインにおける銀の弾丸になるわけではない。だからこそ、ユーザーが自身に合った認証方法を選べる「選択肢の多様さ」が重要になる。
セルフィービデオを設定してみた
実際にセルフィービデオをどうやって設定するのか、録画したのを記念にYouTubeにあげた。(私の顔が出ますが、驚かないでください。あと音声がないです。ごめんなさい。)
VoiceOverで確認したところ、設定ステップは読み上げとキーボード操作に対応していた。カメラ位置が固定されているデスクトップ環境であれば、視覚障害のあるユーザーでも比較的設定を完結しやすいと予想する(撮影中の状態に関する音声フィードバックがさらに充実するとより良い)。

興味がある人は設定してみてください。 (設定画面へのリンク)
おわりに
高齢者や知的障害のある方がデジタル機器の操作でつまずいたとき、「それは本人のリテラシーの問題だ」「周囲が手伝えば済む話で、Webアクセシビリティの領域ではない」と片付けられてしまう場面を何度も目にしてきた。
しかし、セルフィービデオのようなセキュアかつアクセシブルな技術の進化によって、ログインが利用障壁になる場面は確実に減らせる可能性がある。
「利用者のリテラシー」に責任を転嫁せず、UIや技術によってアクセシビリティの課題を解決することを諦める必要はないと今回の新機能を通じて改めて感じた。






