Collaboration Tools Accessibility User Requirements(CTAUR)

https://www.w3.org/TR/ctaur/#collaboration-tools これはアクセシビリティアドベントカレンダー 16日目の記事です。W3CのCollaboration Tools Accessibility User Requirements(CTAUR) を紹介します。内容は執筆時点の情報です。

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Collaboration Tools Accessibility User Requirementsとは

Collaboration Tools Accessibility User Requirements(CTAUR)は、コラボレーションツールのためのアクセシビリティ要件がまとめられたW3Cのドキュメントです。2022年11月8日に草案の初版(First Public Draft)が公開されました。

CTAURのAbstractの冒頭には、このドキュメントについて以下のように書かれています。

This document outlines various accessibility-related user needs, requirements and scenarios for collaboration tools.

各章の紹介

CTAURは以下の6つの章+Referencesで構成されています。

  1. Introduction
  2. User need definition
  3. Real-Time co-editing
  4. Annotations
  5. Version control features
  6. Notifications and Messages

各章の内容を簡単に紹介します。

1. Introduction

https://www.w3.org/TR/ctaur/#introduction

この章は三つの節で構成されています。1.1では、コラボレーションツールとはどんなツールかとその例、1.2では、コラボレーションツール特有の機能、1.3では、現在のWCAGなどのガイドラインはコラボレーションツールやその機能のアクセシビリティを保証するのに十分でないことについて書かれています。

1.2のNoteの後半では、このドキュメントではコラボレーションツールのコラボレーションのための機能についてだけ取り扱うと書かれています。例えば、グラフィック編集用のコラボレーションツールでは、他のユーザーと共同作業時の即時通知機能はこのドキュメントで取り扱われますが、グラフィック編集操作時のアクセシビリティ上の問題(キーボード操作のみで図を編集できないなど)は範囲外です。

2. User need definition

https://www.w3.org/TR/ctaur/#user-need-definition

この章は、ユーザーニーズがユーザーの作業環境・状況によって異なることについて説明されています。コラボレーションツール使用時ならではの状況がユーザーの能力に与える影響についても触れられています。

3. Real-Time co-editing

Collaboration Tools Accessibility User Requirements

この章は、リアルタイム共同編集時のユーザーのニーズとそれに対する要件がシナリオごとにまとめられています。

EDITOR'S NOTEでは学習障害認知障害に起因するニーズに対して、どのような戦略を用いるべきか?スクリーンリーダーの課題とどう異なるのか?というようなことが書かれています。ユーザーが編集に集中している間に発生した他のユーザーによる変更などが与える認知的負荷などについて今後議論されていくのでしょう。

4. Annotations

https://www.w3.org/TR/ctaur/#annotations

この章は、状況によってユーザーのニーズが大きく異なる機能の一つであるアノテーション(コメント機能)について、さまざまな状況ごとのシナリオが書かれています。

5. Version control features

https://www.w3.org/TR/ctaur/#version-control-features

この章は、バージョン管理機能に関連する機能について、5.1では提案機能、5.2ではリビジョン間の差分と2つの節に分けて書かれています。

6. Notifications and Messages

https://www.w3.org/TR/ctaur/#notifications-and-messages

この章は、コラボレーションツール利用中のさまざまな通知やメッセージについて書かれています。これは、コラボレーションツールのアプリケーション内で発生する通知だけではなく、メールやOSの機能で行うものも含めた、通知・メッセージの提供に関する内容になっています。

A. References

https://www.w3.org/TR/ctaur/#references

参考文献が紹介されています。

感想

このドキュメントが公開された当時、私はコラボレーションツールの開発チームに所属していて、コラボレーションツールのアクセシビリティ向上について、WCAGに沿って進めていくのは難しいと感じていました。このドキュメントに書かれているとおり、コラボレーションツール特有の機能やUIの課題が多いためです。なので、このドキュメントが公開され初めて読んだときは本当に嬉しかったです!

このドキュメントの特徴は、WCAGの達成基準ではカバーしきれない、リアルタイムで発生するコンテンツの変化とそれをユーザーが受け取るときの認知負荷について考慮されている点だと思います。

ウェブのアクセシビリティに取り組む時、スクリーンリーダーが正しく読み上げられるようにするため・キーボード操作を可能にするため「追加」の対応をするイメージがあるように思いますが、このドキュメントでは認知の余計な負担を軽減するため伝える情報の「削減」についても検討されています。

ウェブアクセシビリティについて視覚障害者向けのものだと認識されることも現状多いように思いますが、このようなドキュメントをきっかけに学習障害認知障害アクセシビリティについて議論が進めば、ウェブアクセシビリティが今よりさらに多くの人のための、みんなのためのものになっていくのではないかと期待しています。楽しみです!