カカオ社製品のアクセシビリティ

韓国のカカオ社が今年のGAADにデジタルアクセシビリティ改善に関する発表をしたらしく、記事が出てた。

카카오, 카톡 사진에 설명 단다…시각장애인 접근성 높여

記事の中で気になったとこを書いとく。

韓国内IT企業初のデジタルアクセシビリティオフィサーDAOを選任

DAOといえば分散型自立組織!だと思ったけど、デジタルアクセシビリティオフィサーなんだ!デジタルアクセシビリティオフィサー、初めて聞いた。企業にアクセシビリティの責任者を立てるのは、よさそう。

カカオトーク

マルチメディアに代替テキスト設定可能

カカオトークで送信する画像や動画に代替テキストを設定できるようになった。これは手元でためしてみた。静止画・動画どちらも50文字以内の「説明文」を入力できるようになっている。

片手で掲げられた日本酒の瓶の写真をカカオトークで送信しようとしている画面のスクショ。画面下部に代替テキストを入力するためのUIがある。

説明文がある静止画・動画は画像の右下に説明文を表すアイコン(水平の3本線)が表示され、アイコンを押すと説明文を確認することができる。

カカオトークのトーク画面のスクショ。代替テキストが設定されている画像や動画のサムネイルにはその右下に説明文を表すアイコンが表示されている。

音声メッセージ受信時、内容を字幕のように表示可能

これは試せなかったのでよくわからない。音声認識して自動で字幕出すのかな? カカオトークの私しかいないルームで音声メッセージを送ってみたけど表示されなかった。人から受け取った音声メッセージだったら表示されるのかもしれない!カトクに友達いなくて…。

ステッカーに代替テキスト機能

LINEではスタンプと呼ばれるみたいな絵文字機能にも代替テキスト機能が追加されている。もともとはカカオフレンズ(カカオの公式キャラクター)の絵文字にのみ代替テキストが提供されていたが、クリエイターが制作したステッカーにも説明文(代替テキスト)を設定できるようになったそう。これも詳細は不明。

その他

PC版カカオトークに拡大鏡追加。SMS本人確認時の制限時間延長が可能に。カカオトークAndroid版が点字ディスプレイをサポート。

カオマップ

昨年11月のアップデートで、ソウル地下鉄1〜8号線の駅舎の乗降場について、列車と乗り場の間隔の広さと高低差の情報をカカオマップで見られるようになった。とのこと。

それめっちゃいいじゃん〜と思ってiOS版のカカオマップをダウンロードしてみたら、だいぶ良かった。

カカオマップのスクリーンショット

マップから駅を選ぶと、駅のリアルタイム電車発着情報、施設情報が表示された。施設情報には、駐車場、トイレ、出口、通り抜け、案内センター、駐輪場、待ち合わせ場所、観光案内所の有無などが書かれている。

さらにその下には「交通弱者情報」という見出しがあった。アプリの言語を英語にしてみると「Facilities for Disabled」と言う見出しになった。多機能トイレ、授乳室、車椅子充電、車椅子用席のある車両、車椅子昇降機、車椅子用スロープについての情報が並ぶ。昇降機とスロープの情報には電話番号が書かれている。使いたかったら電話する必要があるのかな?

カカオマップの駅情報画面のスクリーンショット。電車の発着時刻の情報、施設情報、障害者向けの施設情報が並んでいる。

下部には「交通弱者移動情報案内」というボタンがある。 押してみると、駅内の移動経路一覧画面に移動した。

出入り口一覧画面のスクリーンショット

一覧から1つの行き先を選択すると、経路案内の画面に移動し、エレベーターを使う場合の移動経路を見ることができる。

駅内の移動経路案内画面のスクリーンショット

経路案内は構内図(画像)と文字で説明されている。

別のタブでは、乗降場と列車の間隔に関する情報を見ることができる。乗降場番号ごとに間隔の広さ(広い・普通・狭い)と、高低差(高い・普通・低い)が書かれていた。 各乗降場の段差、間隔情報がのっている表のスクリーンショット。

この表があれば、車椅子やベビーカーのユーザーが乗りやすそうな乗降場をあらかじめ調べることができるだろう。もちろんこの表には車椅子席やエレベーターの有無も一緒に掲載されている。すごい便利そう〜。

その他

カカオはアクセシビリティ改善のためのチェックリストを制作したり、実態調査を行なってアクセシビリティの意識強化をやっているらしい。 今年の下半期にはアクセシビリティ報告書を発刊するなどアクセシビリティ改善を拡大する。とのこと!!

この改善すべて、ここ半年でリリースされたものっぽい。チェックリスト、見てみたいなぁ。 この記事にある機能改善のリリース情報やヘルプページなど、公式の案内を見つけることができなかった。そのうち出るかな?

やさしい判決文

ただのメモ。

“안타깝지만 원고가 졌습니다”… 삽화도 곁들인 친절한 판결문 보셨나요 - 조선일보www.chosun.com

先月末読んだ朝鮮日報の記事。直訳すると記事のタイトルは 「残念ながら、原告が負けました。」挿絵も添え 親切な判決文をご覧になりましたか。 という感じ。

聴覚障害者が原告だったとある裁判で、原告はわかりやすい言葉で判決文を書くように求めたそうだ。そして出たのがこのイラスト付きの「親切な判決文」ということだそう。

記事にも書かれているけどこれはまさに裁判を受ける権利を保障するということだし、これもまたアクセシビリティ

「障害者リモートワーク・ワーキンググループ」活動報告書

2022年12月5日に公開された日本財団「障害者リモートワーク・ワーキンググループ」活動報告書を読みました。ブログに書こうと思ってもう一ヶ月以上経ってしまった。

www.nippon-foundation.or.jp

この報告書のいいところをまとめようと思って一ヶ月前に記事の下書きを作成したけど進まなくて諦めた。この報告書が多くの方に読まれるといいなと思います。

この報告書は障害者雇用のマニュアルではないこと。この報告書で登場する障害者は、障害種別も状況もそれぞれ 異なり、ワーキンググループの経験がすべての障害者を代表するものではありません。同じあるいは似た障害がある人 同士でも、一人ひとりの状況やニーズは異なり、障害の種類や状況によって望まれる配慮も異なります。(報告書の目的より)


この報告書を読んで改めて、相手がどんな特性を持っている人でも、その人にとってどういう状態が働きやすいか・にくいか、ちゃんと話し合って理解することの重要さを感じました。話す側・聞く側の両方にスキルが求められるので難しいところだけども、そこがやっぱり大事。

障害の有無にかかわらず「もっとこうだったら働きやすいのになぁ」みたいに感じることって誰でもあると思うんですよね。その時にそれを、伝えなければいけない相手にわかりやすく伝えるのって誰でも難しいでしょう。言われたほうも、相手の本当の意図や背景まで知らなければそのリクエストに応えられないかもしれないし。言うのも聞くのも難しい。

どんな人と働く時も、必要な場面では相手を理解することや自分を理解してもらうことを、面倒がって避けたりしないようにしたいなぁと思います。

追記: 報告書のWordとPDFちゃんとつくってくれたら最高だったな...

フロントエンドエンジニアをやめました。

フロントエンドエンジニアとして働くのを2022年いっぱいで終わりにしました。今までフロントエンドエンジニアとしての私と関わってくださった方、元上司、元同僚、友人・知人の皆様、本当にありがとうございました。

コーダーから始めて、約7年間ウェブのクライアントサイドのコードを書く業務をしました。

2023年からは大好きなアクセシビリティに向き合う仕事をやります。夢のよう!

なぜやめたのか

寝る時間も惜しむほど熱中できることを仕事にするのがいいなと思ったからです。いわゆる現代のフロントエンドエンジニアに求められるスキルの向上に対して、それほどの情熱を持っていたかというとそうではなく。ずっと情熱的な人に囲まれて働いてきて、愛がある人には勝てんな。と痛感し、私も愛する分野で生きていかなければと思いました。

誰もが求めるものにたどりつけるインターネットであってほしい

私を突き動かすのは「ウェブで快適を手に入れたい」という自分の欲望です。同時に、それが誰にでも可能であってほしいと思います。取り残される立場をまあまあ経験した自分にとって、誰かが取り残されるということは全く面白くありません。それが遠くの知らない誰かだとしても!

ウェブが全ての人にアクセシブルになるように、自分ができることを探してやっていきます。30代に突入し第二章が始まったような気分。

Collaboration Tools Accessibility User Requirements(CTAUR)

https://www.w3.org/TR/ctaur/#collaboration-tools これはアクセシビリティアドベントカレンダー 16日目の記事です。W3CのCollaboration Tools Accessibility User Requirements(CTAUR) を紹介します。内容は執筆時点の情報です。

www.w3.org

Collaboration Tools Accessibility User Requirementsとは

Collaboration Tools Accessibility User Requirements(CTAUR)は、コラボレーションツールのためのアクセシビリティ要件がまとめられたW3Cのドキュメントです。2022年11月8日に草案の初版(First Public Draft)が公開されました。

CTAURのAbstractの冒頭には、このドキュメントについて以下のように書かれています。

This document outlines various accessibility-related user needs, requirements and scenarios for collaboration tools.

各章の紹介

CTAURは以下の6つの章+Referencesで構成されています。

  1. Introduction
  2. User need definition
  3. Real-Time co-editing
  4. Annotations
  5. Version control features
  6. Notifications and Messages

各章の内容を簡単に紹介します。

1. Introduction

https://www.w3.org/TR/ctaur/#introduction

この章は三つの節で構成されています。1.1では、コラボレーションツールとはどんなツールかとその例、1.2では、コラボレーションツール特有の機能、1.3では、現在のWCAGなどのガイドラインはコラボレーションツールやその機能のアクセシビリティを保証するのに十分でないことについて書かれています。

1.2のNoteの後半では、このドキュメントではコラボレーションツールのコラボレーションのための機能についてだけ取り扱うと書かれています。例えば、グラフィック編集用のコラボレーションツールでは、他のユーザーと共同作業時の即時通知機能はこのドキュメントで取り扱われますが、グラフィック編集操作時のアクセシビリティ上の問題(キーボード操作のみで図を編集できないなど)は範囲外です。

2. User need definition

https://www.w3.org/TR/ctaur/#user-need-definition

この章は、ユーザーニーズがユーザーの作業環境・状況によって異なることについて説明されています。コラボレーションツール使用時ならではの状況がユーザーの能力に与える影響についても触れられています。

3. Real-Time co-editing

Collaboration Tools Accessibility User Requirements

この章は、リアルタイム共同編集時のユーザーのニーズとそれに対する要件がシナリオごとにまとめられています。

EDITOR'S NOTEでは学習障害認知障害に起因するニーズに対して、どのような戦略を用いるべきか?スクリーンリーダーの課題とどう異なるのか?というようなことが書かれています。ユーザーが編集に集中している間に発生した他のユーザーによる変更などが与える認知的負荷などについて今後議論されていくのでしょう。

4. Annotations

https://www.w3.org/TR/ctaur/#annotations

この章は、状況によってユーザーのニーズが大きく異なる機能の一つであるアノテーション(コメント機能)について、さまざまな状況ごとのシナリオが書かれています。

5. Version control features

https://www.w3.org/TR/ctaur/#version-control-features

この章は、バージョン管理機能に関連する機能について、5.1では提案機能、5.2ではリビジョン間の差分と2つの節に分けて書かれています。

6. Notifications and Messages

https://www.w3.org/TR/ctaur/#notifications-and-messages

この章は、コラボレーションツール利用中のさまざまな通知やメッセージについて書かれています。これは、コラボレーションツールのアプリケーション内で発生する通知だけではなく、メールやOSの機能で行うものも含めた、通知・メッセージの提供に関する内容になっています。

A. References

https://www.w3.org/TR/ctaur/#references

参考文献が紹介されています。

感想

このドキュメントが公開された当時、私はコラボレーションツールの開発チームに所属していて、コラボレーションツールのアクセシビリティ向上について、WCAGに沿って進めていくのは難しいと感じていました。このドキュメントに書かれているとおり、コラボレーションツール特有の機能やUIの課題が多いためです。なので、このドキュメントが公開され初めて読んだときは本当に嬉しかったです!

このドキュメントの特徴は、WCAGの達成基準ではカバーしきれない、リアルタイムで発生するコンテンツの変化とそれをユーザーが受け取るときの認知負荷について考慮されている点だと思います。

ウェブのアクセシビリティに取り組む時、スクリーンリーダーが正しく読み上げられるようにするため・キーボード操作を可能にするため「追加」の対応をするイメージがあるように思いますが、このドキュメントでは認知の余計な負担を軽減するため伝える情報の「削減」についても検討されています。

ウェブアクセシビリティについて視覚障害者向けのものだと認識されることも現状多いように思いますが、このようなドキュメントをきっかけに学習障害認知障害アクセシビリティについて議論が進めば、ウェブアクセシビリティが今よりさらに多くの人のための、みんなのためのものになっていくのではないかと期待しています。楽しみです!

青年期・成人における発達障害のある人を取り巻く現状や課題

筑波大学ダイバーシティアクセシビリティ・キャリアセンターの一般公開WEBイベント「青年期・成人期における発達障害のある人を誰一人取り残さない社会に向けて」に見逃し配信枠で参加登録をしました。

dac.tsukuba.ac.jp

10月4日まで見逃し配信が可能で、今日は 本田 秀夫 先生による基調講演「青年期・成人期における発達障害のある人を取り巻く現状や課題、目指すべきこと」を視聴しました。

思ったこと・知ったことなどメモ

  • 発達障害者にとって幼少期の環境や育ち方の影響は大きい
  • 見た目で判断できない障害だからこそ「そうは見えない」当事者が社会的カモフラージュ行動を取りストレスになりやすい。発達障害者にとっては、ふつうに振る舞うことが過剰適応になっているともいえる。
  • 発達障害者への合理的配慮として、やらなくていいことを決めることができる。あいさつ、雑談、忖度、時間厳守など。
  • 合理的配慮はあくまで合意の上で行うこと。本人の希望を必ず確認しないとトラブルを招く。

最後の質疑応答の時間で先生が「発達障害の人にできないことをちゃんとやれというのは、身長164.5の成人に165cmになれっていうようなもんですよ。ほんのわずかな差だけど一生埋まらない」というようなことを(原文ママではありません)おっしゃっていて、本当に、そうだと思いました。理解されにくいことですが。どんなに頑張っても埋められない欠点があって、それは怠惰だと受け取られやすい。辛い。

AccessReadingについて

所属している会社の福利厚生の一環で、日本のとある高校で情報の授業と絡めた(絡めたい)アクセシビリティの授業をやる計画がある。それに関連して最近は障害のある学生向けの支援の情報を集めてたり。

その中で知ったのが、読むことに困難のある学生のための音声教材を提供するAccessReadingだ。

accessreading.org

「AccessReading(アクセスリーディング)」は、 読むことに困難があり、特別支援を必要とする児童生徒のためのオンライン図書館です。 東京大学先端科学技術研究センター社会包摂システム分野と、同大学図書室が共同で運営しています

www.youtube.com

「読むことに困難があり、特別支援を必要とする児童生徒」やその保護者・教員等が登録・利用申請することでAccessReadingが持つ教科書のデータを音声読み上げ可能なdocxとEPUBの形式でダウンロードすることができる。 データを配布するだけでなく、その使い方を細かく説明するページもある。やさしい。

なかでも、教職員等関係者向けの手引きがすごい、やさしい資料で 「音声教材配信手引き―通常学級担任、通級指導学級担任、教育委員会向け―」(PDF)

この文書について冒頭でこのように説明されている

この手引きは、音声教材が読み困難の児童生徒の手元に届くまでに、関係者がどのように行動すればよいのか、その行動指針を示したものです。

ただ単純に、教材を授業に活用する手順書なのではなく「音声教材が読み困難の児童生徒の手元に届くまでに関係者がどのように行動すればよいのか」が書かれているのがすごく優しい。この手引きのスタートは「音声教材をダウンロードした」地点ではなく「教科書を読むのに不便がある生徒がいる」地点なのだ。そのような状況で、本人(生徒)はどのようにこの支援(音声教材)の活用にたどり着くのか、学校関係者はどのようにサポートできるのか、どのように話し合い当事者の困難を理解していくのか。そういうことが詳細に、丁寧に、わかりやすい言葉でまとめられている(ToT)

円滑にサポートするためのインフォームド・コンセントの重要性についても書かれているし、実際にこの教材を使っている現場からの声をもとに具体的な困りごととその解決事例が紹介されている節もある(ToT)

もし、このような支援を持つ子を持つ親の立場だったら。学校側がこの手引きを理解してくれ、この手引きに沿ったサポートをしてくれるというならどれほど安心できることか。

もし、支援が必要な生徒を抱える教師の立場や、教育関係者の立場だったら。生徒をどのようにサポートしたらいいかとても悩むと思う。そのときにこの手引きが大きな助けになると思う。

子供の教育環境については、周りの大人が左右することが大きすぎると思う。子供だけで環境をコントロールするのは難しいだろう。周りの大人がこの手引きにあるように、本当に寄り添って理解し支援するための行動をとることが必要不可欠だ。

私は今回調べて初めてこのような支援があるのをしったのだけど、これが必要な人にちゃんと届いているのだろうか?届いているなら最高だし、届いてないなら残念だ。このへんの当事者の方々の実際の環境については本当に何も知らないので何も言えない…。

AccessReadingのウェブサイトでは活用事例が紹介されていて、このツールを導入するときの話や、実際にどのようにこの教材を活用しているか、この教材の他にどんなツールを使って学習しているかが書かれている。

accessreading.org

ある生徒さんの事例で、この教材を導入するための相談の際に感じたこととして

「・肢体不自由の支援学校なので、『みんな書けません、読めません。それぐらい読めてれば…書けていれば、使わなくてもいいのでは』という先生方の考え方が根強く、本人の辛さを理解してもらいにくかったことと、どう使うのかを先生方がイメージできないため、音声教材や機器を使うことを大変な事こと、難しいことと捉えられてしまっていたことが大きかったです。 https://accessreading.org/AR_case02.html

と書かれていた。支援学校の先生でさえそのような考えだったんだ。そういう先生たちがいたり、他にもいろんな困難があったり、いろんな準備が必要だったんだろう。そういう環境で当事者と理解のある担任の先生と協力して、導入にたどりつけた…のかもしれない。みたいなストーリーを想像した。この導入事例は苦労話じゃないのでこういう想像はあんまりよくないのかも?でも「支援策の理解に関する支援」が必要なのでは?と思った。

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